秘境釣行
沢登りでピークを目指すような人が見向きもしないような渓流。
釣人がおいそれと立入らないような源流域。
そんな人知れずイワナが育つような秘境を目指す渓流釣り。
そんな山岳ガイドだからこそご案内できる『秘境釣行』のお話です。
※旧みちくさサイトのブログより転記・改筆いたしました。
その川の名前は熊戻渓谷。
その名の通り、熊も引き返すほどの深い渓谷。
50~100mほどの断崖絶壁に刻まれたその川はおよそ10㎞の間に出入りできる場所は片手で数えられるほど。
その数か所ですら入渓するにもザイルが欲しいほどだ。
やっとの思いで川に立ってみれば、上流も、下流もどちらもゴルジュに挟まれている。
どうすれというのか。
もう泳ぐしかない。
初めに探検したときは泳ぎ下った。
理由は楽だから。
けれど、上流から攻めるのだから当然釣れにくい。
だから次は泳ぎ登った。
当たり前だけれど流れに逆らって泳ぐのは大変。
いったい誰が好き好んでこんなことまでして釣りに来るだろうか。
労に見合った魚が釣れるだろうか。
いいや、
こんな渓流に来るのに、釣果など求めてはいけない。
ザイルで崖を下り、泳ぎ、へつり、ほかの釣人の痕跡など見つけようもない場所で見られる景色にこそ価値がある。
ここには冒険に来るのだ。
仲間とともに、自分の力量よりちょっと難しい渓谷を踏破する、冒険。
そこで感じるのは生の実感。
さらに魚が釣れるんだから、これ以上の幸福はあるだろうか。
いや、幸福はあった。
実りの良いこの山ではコクワにブドウ、キノコなどの山の幸が多く、
また他のどの川よりもイワナが美味い。
ブナの森の水が良いからか。
命を懸けて、川を歩き、生の糧を得る。
この幸福感のために毎年必ず僕は訪れる。
「挑戦」を求める源流釣師のご訪問をお待ちしております。